Sound & Silence

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Bandcamp で聴くコンテンポラリークラシック - 現在進行形の現代音楽

Bandcampは、新しいアーティストや音楽との出会いの場であるわけだが、それはロック系だけでなく、ジャズ、フリージャズ、インプロビゼーション、コンテンポラリークラシックまで広いジャンルに渡っていて、Bandcamp全体が今日的な音楽カタログ的な役割を果たしている。

その膨大なカタログを網羅的に聴いていくのは困難で、Bandcamp Dailyとしてテーマに合わせてキュレーションされたプレイリストは探索の入り口として役に立つ。この「The Best Contemporary Classical on Bandcamp」は、数ヶ月単位で作成される新着の現代音楽や実験音楽のプレイリストで、最近の動向をチェックすることができる。

最近リリースされた8月分のリストで気になったもの。

Awadagin Pratt / STILLPOINT

Awadagin Prattは、黒人の指揮者、ピアニスト。このアルバムでは多様なスタイルの6人の作曲家の作品を取り上げている。「今の現代音楽はずいぶん分かりやすくなってしまった」と嘆く向きもあるが、どうなんだろうか? 情緒的過ぎることは後退なのか、難しい問題がそこにはありそうだ。

Sarah Soviet / Spun

ベルリンを拠点とするバイオリニストのソロ作品。タイトルの「Spun」とは「紡がれたもの」の意か。緊張感が高く非常に緻密な演奏。ビブラートが少なく、同じ現代音楽バイオリニストだったポール・ズーコフスキーを思い起こさせる。バイオリンという数百年前の楽器が今日の音楽の紡ぐ。

Carl Stone / Electro Music from 1972 - 2022

今や現代音楽のスターと言ってもいいだろう、Carl Stoneの1972年から50年に及ぶ作曲活動を俯瞰できる。初期のアナログ的なテープ編集からあ1987年の最初のMacintoshによる作品、そして現在のMacbookProによるものまで、彼の一貫したスタイルの発展の軌跡を聴くことができる。現代音楽のボーダーラインを広げて、多くのオーディエンスに到達した彼の業績は今後も高く評価されるに違いない。

Dedalus Ensemble / Performing Brian Eno

逆のポップ音楽から現代音楽のフィールドでも評価されるようになったのがBrian Enoだろう。どぎついメイクと衣装でEMSシンセサイザーをプレイしていたRoxy Music時代に今日の彼を想像するのは困難だった。Obscureレーベルを始めたのが転換点だったろうし、ここでも取り上げられている「Discreet Music」がその起点となる作品となった。

Bang on a Canを始め、Enoの電子音楽作品をフィジカルなアンサンブルで演奏することは流行りかもしれない。ただそうなると、作品はレコードで聴けたオリジナルから乖離して、一つの自立した音楽となる。それは全く別物で、個人的にはEnoと切り離されたこの音楽の有り様は好ましい。

Natasha Barrett / Reconfiguring the Landscape

Natasha Barrettはノルウェーの作曲家。この作品はイタリアのベニスでフィールドレコーディングされた音風景を元に作られている。日常の周りにある音が変容されて、別の風景を聴く者の周りに出現させる。静かな音風景だが、ある意味では非常にラジカルな作品でもある。本当のアンビエントミュージック。

Thomas Giles & Cole Blouin / Mundiglassia

40分以上にわたるサクソフォンソロ作品。一聴してEvan Parkerの影響が強く感じられる。何かドラマが起きるのを期待するのではなく、ただその変化を受け入れる聴き手の心構えが必要。ただただ心を開くこと。

Abigail Toll / MATRICES OF VISION

これも40分以上にわたる「幻影のマトリックス」とタイトルされた作品は、ベルリン在住のAbigail Tollがストックホルムの電子音楽スタジオで制作したもの。作曲にあたってのデータセットとして、「私たちを取り巻く社会的および政治的メカニズムに批判的に関与する手段としてのデータを使用している」とのことだが、詳細は不明。ゆっくりと変化する持続音は、Kali Maloneに通じるものがある。

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このリストの作品を聴いていて、現代音楽(20世紀音楽)の系譜は絶えていないというか、その延長線上で成し遂げられている作品が多いことがわかる。その中で過去と絶縁しているCarl Stoneは非常にユニークな存在で、それは米国人であること(今は日本在住)が関係しているのかもしれない。

個人的にはフィールドレコーディングされた音源をコラージュしている「Natasha Barrett / Reconfiguring the Landscape」の作品が一番印象に残った。音響なのか、音楽なのか、僕らの周りにある音は何なのか、いったい何を聴いているのか、といった多くの問いかけがそのこにあるように感じる。

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