Sound & Silence

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The Dark Side Of The Moon - Live At Wembley 1974 / Pink Floyd - 髪に花を挿した若者も、いつかは大人にならざるを得ない

1973年3月にリリースされたPink Floydの『The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』は、全米での売上枚数や影響力からしても、70年代オールドロックのモンスターアルバム。邦題の『狂気』は、当時の担当ディレクターの発案によるものだろうが、インパクトはあるが、それが日本においてこのアルバムが誤解される原因になっている気がする。

僕はこのアルバムのテーマは『挫折』だと思っている。人は無垢に生まれながら、社会で成功者となるように追い立てられ、時には戦争のような理不尽な物に巻き込まれ、金が全ての世界の中でもまれ、凡庸でいることは許されず、最後は頭の中にいるもう一人の自分に支配されてしまうという話。ヒッピーの夢の挫折、革命の失敗、髪に花を挿した若者も、いつかは大人にならざるを得ない。居心地良い幼年期の終わり。

『The Dark Side Of The Moon』は発売から20周年、30周年、40周年とアニバーサリーリリースが続き、今年は節目となる50周年のリリース。超豪華なボックスセットがリリースされ、そのスピンアウトとなるアナログ盤が、この1974年のロンドン、ウエンブリーでの全曲ライブ。おそらくこの公演はラジオで放送されたのか、これまでもブートレグでよくあった。

オリジナルアルバムを凌ぐ、ライブでの全曲演奏

この『The Dark Side Of The Moon』は、レコードリリース前の1971年後半からライブで演奏されており、最初はレコードとは全く異なるものだった。ライブで作品を鍛えるのが彼らのスタイルなんだろう。最終的にはサックスや黒人女性ボーカルを含む編成となっていった。

レコードリリースから1年以上たって演奏がこなれたきたのがこの1974年のツアー。ブートレグも悪くなかったが、今回のリリースは音質が圧倒的に改善されている。おそらく当時のライブ会場よりも高音質なのではないだろうか。演奏の細部まで見通しがよく、恐ろしく臨場感がある。

演奏も良い。多分この作品のベストライブのひとつだろう。特にギター&ボーカルのDavid Gilmoureとキーボード&ボーカルのRick Writeの二人が前面に出ている。ブートレグと比較しても、音のバランスが全く違う。「Time」や「Us and Them 」でのギターソロや二人のボーカルの掛け合いなどは、このライブのハイライト。「The great gig in the sky」でのソウルフルなスキャット、「Any color you like」でのギターソロ、ムーグソロのいずれもがパワフルで、オリジナルアルバムをはるかに凌いでいる。本当に素晴らしい。

アルバムカバーは印刷指示書

このライブアルバムのカバーを「デザインのラフ案」と紹介している記事があるが、それは間違いで、印刷所への指示書をそのままカバーにしたもの。まあ、DTPの時代なって久しく、昔の印刷指示書を知らない世代がいても当然かも。

印刷を知っている者には、これも面白い。縁取り線は付けないとか、黒にはシアンを80%加える、同じ6色を表と内側で使うこと、文字は黒字に白抜きなど、細かい指示を見て取れる。印刷のプロセスとしては、この指示書を出した後に、最終印刷用の色見本が印刷所から出てきて、そこでまた詳細を指示をして最終版の印刷物になる。

あと、このアルバムには、「Time」の演奏のバックで使われる時計のアニメーションの原画とツアーポスターのレプリカがオマケとして封入されていた。

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このレコードが届いてから何度も聴いているが、このライブがあれば、買い集めたオリジナル盤や高音質盤はもう聴かないかも、と思うほど気に入っている。ライブバンドのしてのPink Floydの一つの頂点。売れた有名な作品ということでなく、音楽がそれ自身のチカラだけで立ち上がっている、稀な例かもしれない。


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