Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Marantz CD-34 - 38年前のCDプレーヤーをもう一度手に

最近はアナログレコードのことばかり書いているけど、もちろん日常的にはCDやストリーミングも聴く。CDについては、90年代の製品のNakamichi CD-4のデジタルアウトをATOLLのDAC200につないで聴いていて、それはそれで大きな不満はなかったが、ハイファイ堂で古いMarantz CD-34 CDプレーヤーが販売されているのを見て、今聴いてみるとどんな感じなのか興味半分で購入してみた。今回はその話。

CD黎明期のエポックな製品だったMarantz CD-34

このMarantz CD-34が発売されたのは1985年で、当時は世界第2位の音楽市場規模があった日本向けにCDを普及させるための戦略モデルだった。レコードジャケットサイズのコンパクトな筐体で59,800円という手頃な販売価格ながら、ドライブユニットを中心にプラスチックではなく、アルミダイキャストとしたり、DACチップを左右独立で配置するなど、当時としては採算度外視の高音質化が施されたエポックな製品であり、電源ケーブルやピンケーブルが直出しで、買って置けば直ぐ使える設計になっていた。国内メーカーに与えた影響は非常に大きいものがあったようで、そうした点については、インターネット上に今も多くの説明が存在する。それだけ印象の強かったCDプレーヤー。

その音質は、CDを駆動して読み取るプレーヤー部のメカニズムにハイエンド機に採用されていたフィリップスのCDM-1が使用されていて、低音が分厚いとか、アナログライクで素晴らしいとか、半ば伝説化されてしまっている。

自分にとって最初のCDプレーヤー

僕にとっての最初のCDプレーヤーでもあった。当時、個人的にCDには懐疑的だったが新譜がCDでしかリリースされなく始めたため、やむなく買ったのがこの製品。音質について特別な印象は残っていない。でも「やっぱりCDはダメだな...」という不満もなく、数年使用した後に同じMarantzの上位機種に買い替えたのだから、気に入っていたのかもしれない。

その後、このCDプレーヤーのことはすっかり忘れていたが、数年前に、熱心に使い続けるユーザーが少なくなく、独自に耐久性の高い金属ギアが作られたり、内部パーツを交換したりとメンテナンスされて現役で稼働していることを知って、まるでビンテージの楽器やクルマや世界のようで興味が湧いてきた。ただ、もう最初の製造から38年経ているので、劣化でRCAケーブルや電源ケーブルは外されてコネクタやACインレットがつけられたり、内部のコンデンサーが交換されたりとかなり手が加えられた状態のものが多い。

Marantz CD-34再び

それで冒頭にも書いたように、数週間前に中古オーディオのハイファイ堂のサイトでこのCD-34を見かけて、傷がないきれいな筐体だったので購入となった。中古の販売価格は当時の定価と同じ59,800円。プレミア価格ではないし、適切にメンテナンスされているのであれば妥当なところでは。

届いた実機はサイトの写真で見た通り良好なコンディションで、手にしてみると7Kgあるのでずっしりと重い。アルミダイキャストでプレーヤー部を強化して振動対策がされるなど、オーディオ全盛期の物量投入を感じさせる。

僕が買ったものも改造されていて、直出しのRCAケーブルは取り外されてコネクタが取り付けられ、電源ケーブルも太めのものに変更、内部のコンデンサー類は高音質のものに交換されている。接続してCDを再生しながら様子をみたところ、60分を超えたあたりから音飛びして先に進まなくなる症状が発生。お店に相談したところ、初期不良対応で調整作業を追加で行なってくれた。ビンテージの製品は、やはりサポートや修理可能なお店が安心。

それで肝心の「音」はどうなのか?

CD-34 のDAコンバーターは14ビット、4倍オーバーサンプリングなので、現在主流の32ビット、8倍オーバーサンプリングと比べたら前時代的ではある。大きな違いとしてはCD-34に搭載されているのはマルチビットのDACであること。「マルチビットDACは音質的な優位性はあるがビット数をあげるのが技術的、製造的に困難」ということらしく、現在は1ビットDACが主流。CD-34の「低音が良い、アナログ的でいい」という評価はマルチビットDACあることにも関係している。

実際に1週間ほど毎日鳴らし続けてみての印象は、「音楽の鳴らし方が上手」ということ。現代のCDプレーヤーのようなフラットなレンジの広さはなく、音の細部まで見通せるようなシャープさには劣るし、大型スピーカーで聴けるようなスケール感にも乏しい。ただ、今のCDプレーヤーの音がやや細身で透明度の高い美音となる傾向に対して、マルチビットの特徴的な低音の量感や限られたレンジでの音楽的なまとまりの良さからは、限られたリリースの中で音決めをした当時のサウンドデザイナーの優れたセンスを感じさせる。この再生音が「アナログライク」と言われるのは、デジタル的な強調感がなく自然な感じにまとめていることにありそうだ。その辺りが、このCD-34の人気の秘密なんだろう。

アナログで例えるなら、MMカートリッジっぽいというか、雰囲気はSHURE M44Gみたいな音ともいえる。こうしたサウンドトーンは、特にリマスタリング前のCD音源を多く持っている身としては再生音が貧弱になってしまわないので嬉しい。

このSoft Machineのサードの頃のBBCライブ音源は30年ほど前のCDで盤面も琥珀色に変色してしまっている。今はリマスタリングされたステレオCDがリリースされているが、これはモノラル盤。音がだんごになった妙なエネルギー感をこのCDプレーヤーはよく出してくれる。整理され過ぎないリアルさ。

これはボイスパフォーマンスアーティストのMeredith MonkのECMデビューアルバム。1982年に富山県利賀村芸樹祭での「少女教室」で演じられた曲が収録されている。ECMらしい澄んだ音空間に彼女の声が浮かび上がる。その声に人肌感がある。

JapanのライブのリマスタリングCD。紆余曲折のあったグループだが、ライブではミック カーンのベースとスティーブジャンセンのドラムの黒っぽい、ホワイトファンク的な要素が聴きどころ。CD-34の太い低音がより強くそれを感じさせる。

JazzはこのCDプレーヤーの得意分野でJazz専用にしてもいいほど。このEric Dolphyの「Last Date」は、1994年にリリースされた24ビットのリマスタリングCD。スタジオライブの風景がリアルに眼前に広がる。久しぶりに聴いたが、最後まで聴き込んでしまった。投入感が強いところがMMカートリッジと似てるかもしれない。

あんなにアナログレコード派だったのに、このCD-34が届いてからCDばかり聴いている。このCDプレーヤーで聴くと音楽が楽しくて続けて聴きたくなる。そんな素朴な魅力がある。

参考リンク

tannoy.exblog.jp

audio-heritage.jp

www.hifido.co.jp


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