Thinking is The Form

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Gil Evans / Into The Hot - インテリジェントで機知に富むジャズオーケストラサウンド

最近買ったレコード3枚目の話。僕はジャンルを問わず音楽を聴くが、それは趣味の幅が広いのではなく、「自分が関心を持てる音楽」をいろんなジャンルから探索しているだけであって、一つのジャンルを掘り下げているわけではない。なのでジャズのアルバムが200枚以上あっても、所謂、伝統的な「ジャズファン」ではない。

なのでジャズファンの前ではジャズの話題はしないことにしている。以前、ジャズファンに「君はジャズのことなど何も分かっていない」とたしなめられたから。同じ理由でThe Beatlesのファン、King Crimsonのファンの前では、そのグループの話はしない。

ギル・エバンス - Coolでもあり、Hotでもある

ギル・エバンスは一般的にはマイルス・デイビス「名盤」とされる『スケッチ・オブ・スペイン』のオーケストラアレンジャーとして知られているが、僕がギル・エバンスを意識したのは、ソフトマシーンのドラムだったロバート・ワイアットのファーストソロ『The End of An Ear』の1曲めの変なスキャットの曲がギル・エバンスの『Las Vegas Tango』のカバーであることを知ってから聴くようになり、今でも彼とそのオーケストラのアルバムには音楽的に惹かれるものが少なくない。

ギル・エバンスは、ホーンを中心にした多人数のジャズオーケストラを巧みに操り、万華鏡のように自由に変化するギル・エバンス・サウンドを作り上げ、ゲストミュージシャンがいれば、その演奏を引き立てながらも、オーケストラは単なるバックの添え物でなく、その存在を巧みに主張していく。

フリージャズからボサノバまで様々スタイルをこなす器用さがありながら、アンサンブルは知的で抑制が効いており破綻することなく、あるテンションをずっとキープできるのは、アレンジャー、指揮者としてのギル・エバンス才能ならでは。

このアルバムは1961年のリリース。前作のタイトル『Out Of Cool』を受けて、『Into The Hot』というタイトルがつけられたのだろう。トランペッターのJohn Carisiの作品の3曲、激しい演奏で知られるフリージャズ ピアニストCecil Taylorの作品の3曲の合計6曲が交互に収録されている。

John Carisiの作品はセリー的というか、12音階風のエキゾチックの趣きがあり、一方のCecil Taylorの作品は彼らしいアグレッシブで大胆なピアニズムを聴かせる。シェーンベルクにジャズオーケストラの作曲を依頼したらこんな感じに仕上がるのかもしれない。

個々の楽曲は個性的でアンサンブルもソロも充実しており、今聴いても新鮮。全体としては、純然たるフリージャズの一歩手前で踏み止まるような印象で、ただの音のカオスをなることはない。それがギル・エバンスのアレンジャーとしてのなせる技なのだろう。演奏が熱を帯びても、一定の距離を置いた客観性が失われることがない。それが繰り返し聴いても発見があり飽きることがない理由なのかもしれない。

奥行きのある50年前の日本盤の音

入手できたこのレコードは1962年に日本でリリースされたモノラル盤。もう半世紀以上前のレコードだけど、バキュームクリーナーで洗浄すると、表面の擦り傷はあるもののノイズもほとんどなく良い状態で聴ける。ジャケットに印刷されている当時の価格は1,500円、ラーメン一杯が50円だった時代なのでレコードは貴重な高級品。なのでずっと大切に扱われてきたのだろう。年代を考えるとジャケットもコーティングが剥がれずにきれいに保存されている。

レコード盤はかなり厚く、現在の180g重量盤並み。再生音もモノラルらしい奥行きのある音で、各楽器の分離もとても明快。レコードならではのサウンドを楽しめる。1960年代の日本の洋楽やクラッシックのレコードは丁寧に製造されていて、中古価格もリーズナブルなものが多いので気になるものを見かけると、つい買ってしまいたくなる。