Thinking is The Form

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Tony Williams / Turn It Over -ひっくり返してしまえ! 迷いのないドラムが教えてくれること

Tony Williams(トニー・ウィリアムス)は、13歳でジャズドラマーとしてデビューし、1960年代前半には17歳でマイルス・デイビスのレコーディングに参加するという早熟ぶりを発揮する。その若く、勢いがあり、ピュアでパワフルなドラミングが当時の多くのジャズミュージシャンを魅了したことは想像に難くない。

時代はポップミュージックに大変革が押し寄せる1960年代後半。彼もそのうねりに応えるかのように、ジャズの境界線を超えようとする自由な発想で1969年に自身のユニット「Tony Williams Lifetime」を始動する。ギターにジョン・マフラフリン、オルガンにラリー・ヤング、ベースにはゲストでジャック・ブルースが参加。トニー・ウィリアムスはドラムだけでなくボーカルも担当する。

デビューアルバムの「Emergency! (緊急事態!)」は、2枚組のボリュームで、そのアルバムタイトルの通り衝撃的でエレクトリックでありながらスピリチュアルなところもあり賛否両論だった。そして翌1970年にリリースされたのが、この「Turn It Over(ひっくり返せ!)」というアルバム。アルバムカーバーは真黒で、まるでベルベット・アンダーグラウンドのセカンドの「White Light / White Heat」を思い起こさせる。その暴力的でオーバードライブが効き過ぎて、音楽が別の次元に昇華されていきそうなところも似ているかもしれない。

アルバムカバーの裏面には、螺旋状に曲目、クレジットが表示されて、大きく、 PLAY IT LOUD! - 大音量で聴け! PLAY IT VERY VERY LOUD! - とんでもなく大音量で聴け! と繰り返し書かれている。ならばデカイ音で聴いてやろうと、普段の5倍くらいの音量で再生してみた。

A面の最初はチック・コリアの曲で始まるが、この演奏を聴いてチック・コリアの曲とは最初は思えない。大きい音で聴いているからだけでなく、演奏が本当にラウドでパワフルでスピーカーからの暴風にさらされる。しかし、数分聴いていると、これが単なるエレクトリックな轟音ではなく、やっぱりジャズなのだということに突然気がつく。覚醒され過ぎたジャズかもしれないが、もしマフラフリンのギターのフレーズがサックスなら、より一層これがハードなジャズだということがわかってくる。

トニー・ウィリアムスのドラムは、彼の精神の喜びや葛藤やなんとも言えない感情を迷うことなく、そのまま歌うように伝えてくる。彼の精神のありようがそのままドラムプレイにに聴き手を揺さぶる。この迷いのないストレートなエネルギーの爆発が、この Tony Williams Lifetime の最大の魅力なんだろう。

この初期のライフタイムやマイルス・デイビスの「Bitches Brew」は、後の『フュージョン』の先駆けのように言われるが、ここにはいわゆる『フュージョン』のかけらもない。あるのはエレクトリックで増幅されたスプリチュアル(自己超越を繰り返すという意味での)でハードなジャズなのだと。

トニー・ウィリアムスは歌も歌う。B面の1曲目は、ジョアン・ジルベルトのボサノバナンバー「Once I Loved」での歌は、まるで殺し屋が一仕事した後で歌うバラードのよう。抑揚のない鼻歌のような歌い方が、聴き手をゾワゾラさせる。彼の自由なアプローチがそんな歌い方になるんだろう。なんでもあり。

このアルバムは僕が大好きな1枚で、特に行き詰まったときに聴きたくなる。大きい音で聴いていると、「何をそんなことで悩んでいるんだ、自分を信じて行くんだ、行け! ひっくり返してしまえ!」と怒鳴られている気がする。そう、迷っているところに未来はない。ひっくり返して、進んでいけばいいのだ。