Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

The Stranglers / Black and White - あらゆる情緒を拒絶する音楽

1970年代後半のパンクムーブメントの中で、多くのバンドがデビューした。パンクバンドに対する一般的なイメージは、楽器を始めたばかりのメンバーが3コードをかき鳴らしながら社会への不満をがなり立てる、というものだった。確かにそういうバンドも多くあった。 例えば、The Clashは、そうしたスレテオタイプ的なパンクバンドのイメージを体現してデビューしながら、それを見事に昇華して『London Calling』、『 Sandinieta!』というアルバムに結実していく。

その一方で、確かにルックスはパンクだが、演奏レベルも高く、楽器編成的にハモンドオルガンの上にクラビネットやミニムーグが何台も積まれていたり、バイオリンが入っていたりと、まるでプログレッシブ・ロックバンドのようなフォーマットのグループもあった。Ultravox, Doctors of Madness, Gloria Mundi, Magazine そして Stranglersといったグループ達がそうだ。彼らは「パンク(Punk)」というのがスタイルではなく、アティチュードであることを示していた。

ストラングラーズのデビューアルバム『Rattus Norvegicus』は、Sex Pistolsのファースト同じ1977年にリリースされたが、この2枚のアルバムを聴き比べてみれば前記の指摘がわかるだろう。共通しているのは「現実に対する焦燥感」で、それがポジなのかネガなのかの違い。

ファーストに比べてより音楽的にタイトになったセカンドアルバムの『No More Heroes』に続いて1978年にリリースされたのがこの『Black and Wihite』。アルバムカバーは当時としては珍しい、白バックにメンバー4人のポートレートというシンプルたが、ただならぬ雰囲気が漂っている。アルバムのプロデュースは 前作に続いてMartin Rushent。英国盤には付録でシングル盤が付き、米国盤は初回プレスのみマーブルカラーでプレスされている。

The StranglersとMartin Rushentよるこの『Black and Wihite』は、今聴いても異常なハイテンションのエクスペリメンタルサウンドで、ドライという言葉を超えて、あらゆる情緒を拒絶し、聴き手の神経をヤスリで削りつけるような暴力的なところがあり、ポストパンク、インダストリアルサウンドへの萌芽すら感じさせる。歌詞も『No More Heroes』のように分かりやすいものではなくなっている。

ナローレンジでトレブルが異常に高いジャンジャックのベース。空間を切り裂いて聴き手に飛んでくるかのような、これまで聴いたことのない荒れてざらざななムーグサウンド、テレキャスターのギター、大きな音で聴いていると、意識が覚醒される。僕はこのアルバムを聴いてから、それまでの所謂、プログレッシブロックとはずいぶんと距離を置くようになってしまった。つまり、『Black and Wihite』は1978年の最もプログレッシブなロックだったのだ。

ただ、本作に続く『The Raven』では、元の路線に戻りメロディックで分かりやすくなる。さらにその後は、「自分達はヨーロッパのグループある」と再定義し、『Golden Brown』のヒットが象徴するように、実験精神は後退し、より洗練された音楽的な方向に向かう。『Black and Wihite』の名残があるとすればジャンジャックのソロ『Euroman Cometh』だけだろう。

興味深いのは、1980年にギターのヒュー・コーンウェルが薬物で逮捕されたときに、残りのメンバーがゲストを加えて救援ライブを行ったことがある(これはCDでもリリースされた)。おそらく、当時のガールフレンドのトーヤに誘われたのだろう、King Crimsonのロバート・フィリップが Van Der Graph Generator のピーター・ハミルを伴い、『Black and Wihite』のアルバムから4曲を演奏している。この二人が参加した『Tank』のハイテンションなカバーは、このアルバムがプログレッシブあったこと、パンクとプログレッシブロックが背中合わせな存在であったことを見事なまでに証明している。

この『Black and Wihite』はたった1枚だけだったが、時間が過ぎてもその独自の輝きを失ってはいない。これからも、残りの人生の中で何度もターンテーブルにのせて繰り返し聴くだろう。最後の曲『Enough Time』の

Have you got enough time? 時間は十分にあるのかい?

Have you got enough time? 時間は十分にあるのかい?

と自問し続けながら....。


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