Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

関内のDisk Unionでの買い物 - Mick Karn、Keith Jarret、Velvet Underground etc. 古いもの、探していたもの

1ヶ月ほど前に所用で横浜方面に出かけた時に、初めて関内のDisk Unionに寄ってみた。平日だったけど年配のお客さんが多いのは同じ店舗内にJAZZ館エリアがあるからか。壁には数万円〜10万円以上の価格のジャズアルバムが並んでいた。以前訪れた日本のハードコアパンク鳴り響く横浜店のようなちょっと荒んだ感じはなかったが、ジャズレコードに群がるおじさん(自分もそうだが)が多く、医療用のゴム手袋をして一心不乱にレコードを漁っている姿には少し驚いた。最近のレコード店では普通のことなんだろうか? ともあれ、ジャズはともかく、ロックもクラシックもオールジャンルで置いてあるので、ざっと見ていくには便利なお店に感じた。

そんな関内で買ったのはこんなCDやレコード。

Mick Karn / Bestial Cluster(1993)

ミック カーン(1958-2011)は、僕にとってのベストベースプレーヤー。その個性的なプレイと音楽性はJAPAN後も大きな功績を残しているのに、あまりに評価が低いように思う。さらに残念なことに52歳で癌で亡くなっており、晩年は病気の治療で経済的にも困窮して楽器を売って治療費に充てていたというのは切ない。
これは3枚目のソロで、前2作も好作品だがこじんまりしたところがあったが、本作ではダイナミックな演奏に変わってきた。本作からギターのデイビッド トーンも常連メンバー化しており、ミック カーン以上に個性的なギターサウンドを聴かせてくれる。JAPANの盟友ジャンセン&バルビエリの他、サックスのデイブ リーブマン、ヨヒアム キューンというジャズメンをラインアップ。何度も書いているが、どうしてもこういうインストゥルメンタル主体のロックは商業的に成功しないのが本当に残念。

Keith Jarret / Goldberg Variations (1989)

「ジャズ館」の場所から唯一買ったのが、キース ジャレットのバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」のCD。僕は非ジャズを演るキースの演奏が好み。この人の弾くクラッシックには、暗闇の角を照らす灯火のようなところがあり、クラシック専門のピアニストとは決定的に違う。
このアルバムは八ヶ岳音楽堂での録音で、楽器は日本人が制作したハープシコードが使われている。つまりビンテージの楽器ではなく、新しい現代ハープシコードを選択しているのもキースらしいかもしれない。「ゴールドベルグ変奏曲」は、グレン グールドと比較されるし、ピアノで演奏されることが多いが、キースの「ゴールドベルグ変奏曲」も、過去のクラッシックの演奏家とは違う、バッバを今の音楽としてみずみずしくとらえている。

Manuel Gottsching - Ashra Tempel / New Age of Earth (1976)

Manuel Gottsching(1952-2022)のソロプロジェクト。70年代後半になるとジャーマンロックというよりもミニマルミュージック。当時英国や日本ではAshra名義だったが、ドイツ版CDでは、Ashra Tempel名義というのが面白い。ジャケットデザインも異なり、中にはガールフレンドのロジと映っている。前半はミニマルエレクトロニックだが、レコードだとB面1曲となる20分におよぶ「Nightdust」は、「静のAshra Tempel」の雰囲気が濃厚に感じられる。本作以降は、こうした雰囲気が希薄なるので過渡期だったのかもしれない。

Popol Vuh / Affenstunde (1970)

70年代ジャーマンロックの中で独自の存在だったPopol Vuhのファーストアルバム。古くてCDケースが割れてしまっていた。 Affenstundeは『猿人時代』の意味。つまり人類以前の時代への回顧なのか。リーダーのフローリアン フリッケの非ヨーロッパ的で強い東洋志向を反映したユニットで、禁欲的で瞑想的な精神世界を具現化している。

このデビュー作では、裏ジャケに写っているMoogのモジュラーシンセの素朴な使われ方が今では新鮮に思える。彼等を元祖ニューエージ、アンビエントと評する向きわからなくはないが、当時のジャーマンロックはもっと深いものがあった気がする。クラウス シュルツ曰く、「ドイツの黒い森のヒッピーは、アメリカの陽が降り注ぐ丘のヒッピーとは違うのだ。」

De Leeuw - Eric Satie Vol.3

デ レーウ(1938-2020)は、現代音楽を得意とするピアニストで指揮者。現代音楽専門の演奏家にありがちなドライなテクニカル系ではなく、むしろややウエットな表現を備えている。このCDはサティの全集の一枚で、サティが20代のころの薔薇十字団に関わっていた神秘主義時代の作品が収められている。すでに彼の音楽に特殊性、先進性が刻印されている。サティの音楽はメロドラマではない。

Terje Rypdal / Whenever I seem to be Far Away (1974)

ECMのギタースター、テリエ リピダル(1947-)の最もハードな代表作。発売当時買った日本盤を持っているが、美品の西ドイツ盤が1,700円だったので購入。ドイツ盤は音が深い。このアルバムは、メロトロンが鳴り響く北欧のマハビシュヌオーケストラといった趣き。

Van Der Graaf Generator / Still Life (1976)

これも最近見かけない米国オリジナル盤。以前はピーター ハミルの大仰で芝居がかった歌い方が酷く苦手だったが、自分が歳をとったこの20年位の間にその良さがわかるようになってきた。プログレッシブロック全体が下降線となる1975以降にヴァンダーグラフのサウンドはよりタイトになってどんどん時代に合っていく。僕にとってのこのグループは、パンクのストラングラーズと同じフレームの中にいる。

Daly Way’s Wolf / Night Music (1974)

バイオリンがリーダーのロックバンドは難しい。それは、Curved Airで成功したダリル ウェイも例外ではなかった。デビューアルバムは元クリムゾンのイアン マクドナルドのプロデュースで話題になった魅力的なアルバムだったが、クラシカルなロックアンサンブルとロックのどっちつかずの印象となった。セカンドはよりテクニカルなインスト重視の方向に向かい聞き応えのあるサウンドだったが商業的には不発。この3枚目で元IFのパワーのあるボーカルが加入して、ハードロックありバラードありのよりロック的な方向に舵を切ったが、ここまでだった。

個人的にはこのサードを含め、どのアルバムも果敢に自己のスタイルに挑戦していて好きで、特にこのサードはロックバンドとして完成していて、もしこれがファーストアルバムだったら、バンドとしてのその後の評価はずいぶん違っていただろうと思う。

Velvet Underground / CD box set (1995)

これは最初に出たベルベットアンダーグラウンドの5枚組CD ボックスセットで、当時15,000円ほどしていたと記憶している。今ではいろんなボックスが出たので2500円で投げ売り。僕のこのボックセットが一番好きだったが、引っ越しのときに行方不明になったので買い直し。

このボックスの内容は部屋でぶつぶつ言いながら演奏しているプライベートデモが1枚。あとは各アルバムにデモやアウトテイクが入っているが、その収録方法がユニークで、通常なら本編のアルバムが終わった後に「付録」として入れられることが多いが、このCDではいずれの、本編の前や途中など、意図的に挟み込まれてる。それが通しで聴くと新しい気付きがあって面白い。

1枚目のプライベートデモテイクでの「毛皮のビーナス」が、まるでブリティッシュトラッドのようなアレンジなのが、改め聴いても新鮮だった。ベルベットのファンには推薦したい。

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お店で見ていて感じたのは、CDは安いがケースが割れていたりくたびれているものが増えている。レコードは明らかに価格が二極化。同じアルバムでも米国盤や再プレスになると安い。人気のなかったグループも安い。まあ、安いことは、僕には都合がいいことであるのだが。円安やインフレがあって新譜のレコードは高い。シガー・ロスの最新作はアナログ2枚組で8,800円だった。やれやれ。


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