Sound & Silence

音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Chelsea Wolfe - Apokalypsis / Pain is Beauty - 暗い安息の中で

2000年を越えてから、30年前には想像しなかったような暴力が世の中に溢れている。戦争は最も巨大な暴力だが、テロ、暗殺、銃の乱射、無差別殺人も。その暴力の背後にあるのが人間の内面に潜んでいる暗い感情で、それは一部の特殊な人の中にあるものでなく誰の中にでもある。普段は普通の人に見えているのに、ソーシャルメディアでは別人のように振る舞う人も少なくない。

そうした人間の暗い部分の感情が生み出すものは、美術史や音楽史においては重要なテーマであり、数々の作品が生み出されている。上手く説明できないが、特にヨーロッパにおいては、そうした感情が長い歴史の中で文化的、社会的に消化されているというか、それは少なくとも隠されるものではないように感じる。

それに比べると、移民(強制されたものを含め)による多民族で構成され歴史が浅いアメリカにおいては、そうした感情が暴力として現れることが多い。それは、大統領の暗殺や市民への乱射といった銃による暴力だけでなく、古くはKKKや最近ではプラウドボーイズのような差別主義、選民主義として現れることがあれば、人民寺院やマンソンファミリーのようなカルト集団の体裁をとることもある。

その背景には、ドラッグで精神を解き放つことは容認されるが、暗い感情は封印されるべき「Stigma(恥辱)」と抑圧されているからかもしれない。ダイバーシティ、インクルーシブ、といっても、その「多様性」はポジティブなベクトル(あるいはビジネス的な成功)へ向かうものを許容するだけで、人間という複雑で暗い感情を持つ存在が本当に理解されているのだろうか?

そんなことを考えたきっかけは、Chelsea Wolfeの古いアルバムを2枚、中古のアナログで買って聴き始めたことにある。

Chelsea Wolfe (1983-) というアーティストを知って、もう10年以上経つ。最初は米国パブリックラジオのNPRのサイトで2枚目のアルバム「Apokalypsis」(2011)を聴いたことに始まる。最初の印象は、こんなに深く、暗い音楽を創り出すアメリカ人がいることに少し驚いた。ジャンルといてはゴシックメタルになるのだろうが、この人の基本はフォークソングにある。それが表層的なメタルではなくその楽曲に陰影を与えている。

実際、彼女の父親はカントリーミュージシャンで自宅にスタジオを備えていて、10代のころからそこで音楽制作をしていたようだ。なので彼女のフェバリットアルバムには古いアメリカのフォークソングが含まれていることからもそのルーツがわかる。

最近、DiskUnionの中古で、セカンドの『Apokalypsis』(啓示)』と3枚目の『Pain si Beauty(苦悶は美)』(2013)のアナログ盤を手に入れた。改めて初期のアルバムをアナログで聴いてみて、メタルというよりも、ダークフォークというのが本質的なものだと感じた。メロディラインは独特で、ブリティッシュトラッドや北欧のトラッドとも違うし、独特のフレージングでギターの使い方が上手い。バンドなしのギター1本での演奏でも曲の世界観は変わらない。

サウンド面ではベースとキーボードを担当するBen Chisholmの存在が大きく。彼によってアルバムごとにエレクトリック中心だったり、ヘヴィなバンドサウンドだったり、ローファイだったりと表情を変えていく。

彼女の生み出す、その暗い音楽が、広い共感を得るようになってきているのは、そういう感情を隠さないでいいという兆しか。彼女は正面からそうした感情を歌うが、それは単に暗闇に落ちていくのでなく、そこに踏み止まり思考し再生していく過程のように感じる。そして、彼女の音楽に安らぎを感じている自分がいるのも確かなこと。

10月になって新曲がリリースされ、来年はアルバムのリリースとツアーがあるようだ。Chelsea Wolfeの旅は続く。

youtu.be

2021年にリリースした「Birth Of Violence」のソロツアーのドキュメンタリー映像。ステージにおける彼女の葛藤。

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Apokalypsis -Reissue-

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