( Bandcamp.comの画像を引用)
ときどき予想しなかったところから新しい音楽に出会うことがある。このDivide and Dissolveというオーストリア、メルボルン出身の女性二人組のグループもそのひとつとなった。
きっかけは、先日記事に書いたChelsea Wolfeの2024年初頭のツアーのサポートアクトを、このDivide and Dissolveが行うという記事を見たことによる。Chelsea Wolfeをサポートするので興味をが沸いて調べてみると、それは本当に個性的で革新的なサウンドのグループだった。
音楽的にはDoom Metalとなるならしいが、まず、この2人のルックスが全くメタルでない。黒人と白人のフォークデュオかと思うほど。ギターとソプラノサックスのTakiaya Reedは、原住民とアフリカンアメリカンの系譜で、ドラムのSylvie Nehillは、マオリ族とオーストリア白人の系譜。そのルーツから推測できるように、このグループが掲げている政治的な主張は「白人至上主義」と「植民地主義」を打破することにある。『分断と解体』というバンド名が象徴している。
曲は、インストゥルメンタルが主体だが、アルバムは彼等のテーマに沿う詩の朗読が重ねられた曲が含まれれることがある。サウンドは個性的で、Takiaya Reedのギターはもちろん、ソプラノサックスのプレイが素晴らしい。ユニークなテンポで詩的でありながらパワーのあるドラムもすごい。メタルというよりもフリージャズやスピリチュアルジャズ的。ディストーションのロングトーンは、Sunn O)))を彷彿とさせるが、もっとエモーショナルなところがある。
昔ならこうした新しいサウンドはプログレッシブロックの枠だったが、今や形式主義になってしまい、メタルがアニメやゲーム音楽からシリアスなアバンギャルド、エクスペリメンタルまで貧欲に吸収し尽くす存在になっているように思う。ミュージシャンもオーディエンスも年齢層が非常に幅広いことも影響しているのだろう。
この最新作の「Systemic(組織)」は、2分ほどのメロトロンと思われるサウンドで幕を開ける。そして、嘆きの歌ようなソプラノサックスの音に、ディストーションのロングトーンとスローなドラムが覆い被さり、聴き手は、ソプラノサックスのメロディと歪んだギターの音の間に引き裂かれていく。
中でも6曲目の「Indignation(憤り、憤慨の意)」は、壮絶な作品で、ミニマリステックなサックスとオルガンと轟音のディストーションギター、全力で斧を振り下ろすかのようなドラムとのコントラストが、今の時代を告発している。そして、次の「Kingdom of Fear(恐怖の王国)」の詩の朗読へとつながっていく。
最後まで聴くと、これがヘヴィメタルなのかはどうでもよく、この2人の音楽に釘付けにされた自分がいる。聴き始めると止めることができない。