Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

トリオ LS-1000 スピーカー - 当時の国産スピーカーエンジニアの努力が伝わってくる

このブログのスピーカーエッジの硬化対策の記事で書いたように、この20年近くトリオの1970年代後半のJL−3700という2ウェイスピーカーを使っていたが、もし手頃な価格で良い製品があればスピーカーを買い替えようかと考えていた。漠然と70年代製のJBLはどうか思いながら、オンラインの中古サイトを見ていると、以前 Marantzのビンテージアンプを購入したハイファイ堂で、トリオのLS-1000というスピーカーを見つけた。

LS–1000とは

このトリオのLS-1000 は1981年発売。左右2本セットで発売時の価格は236,000円。当時としてはYAMAHA NS-1000Mなどと並ぶ国産高級スピーカー。太いリムが施された28cmウーファーと平面ユニットのスコーカー、ツイーターを強固で不要な振動を抑制したエンクロージャーに収めているフロントパネルは重層構造になっていてW 360 x H 680 X D 326 のサイズながら重量は33kgと重い。僕の記憶では発売当初のレビューで「ワイドレンジ、ハイスピード」を是とする評論家の長岡鉄男氏は高い評価を与えていた。

このLS-1000のハイファイ堂での中古価格はセットで約6万円とJBLの中古よりもずっと手頃だしサイトの画像ではコンディションも良さそうなので購入してみることに。実は僕が最初の買い手でなく、既に先客との商談が始まっていたが、それがキャンセルになったので順番が回ってきた次第。

ウーファーがセンターマウントのマニッシュなデザイン

到着したLS-1000は厳重に梱包されて送られてきた。 こうした梱包のうまさは中古のプロショップならでは。箱からスピーカーを取り出してリビングルームに運び込む。33kgと重いので慎重に移動する。このスピーカーは左右シンメトリーなユニット構成なので、左用、右用が決まっている。

サランネットを外すとスピーカーの中央にリブつきの29cmウーファーが主張するマニッシュなデザイン。ウーファーがセンターマウントなので床の影響を受けにくく設置はそれほど神経質になる必要はなさそうだ。背面は定在波の発生を防止するように逆ピラミッド型の形状をしており、中央に背圧を逃すスリットが入っている。単純な箱ではない凝った作りなので、かなりコストがかかっていそう。今だと当時の価格で作ることは不可能なのでは。

エンクロージャーの外側は大きな傷もなくキレイな状態。マニュアルやサービスガイドも揃っているので、おそらくワンオーナーで大切に使われていたのだろう。

コネクタ部分は当時のままで今の太いケーブルは入らないので、プッシュ式スピーカーコネクタへの変換プラグを用意した。

デザイン通りのコントロールされたハイスピードサウンド

到着前に参考にLS-1000について書かれたブログを読んでみると「中高域がキツイ」という感想が少なくなく、「バランスが良いスピーカー」という高評価のユーザーは真空管アンプのユーザーが多いというのが面白い。

さて、拙宅のシステムに実際に接続しての肝心の音は、危惧していた高域の強調感というのは感じない。僕のところでは、1977年製のMarantz Model 3250/ 170 DCというビンテージなセパレートアンプとの組み合わせなのでちょうどいいのバランスが取れているかもしれない。当時の明るく抜けのいい、カリフォルニアサウンドで気持ち良く聴ける。

確かにスコーカー、ツイーターが平面ユニットなので、ストレートに音が出てくる平面ユニットならでの鳴り方をしているところあるが。低音はさすがに29cmウーファーだけのことはあって伸びがいいが、だら下がりに伸びているというようりも締まりのある筋肉質の低音。バスドラのキックやベースの音程もリアルに再生される。全体的には解像度も高くシャープでスピード感のある音。当時のトリオのフラグシップスピーカーのだったのも頷ける。33Kgという重量の割にコンパクトだし、発売時の広告の「IN=OUTの音」というスローガン通りの特性に注目した質実剛健な設計が成功している。

このスピーカーでいろんなレコードを聴いてみると、やはり広告の通りアンプやカートリッジのサウンドキャラクターをそのまま出す「IN=OUTの音」のスピーカーなのだろう。つまり、スピーカーに何を求めるのかの違いが、評価の違いに出やすい製品なのかもしれない。

それに音楽ソースの差をスピーカのキャラクターでカバーすることをしないので、ソースの音質差をかなりハッキリと出してくる。このあたりも好みが分かれそうだ。何でもシルキータッチでソフトに聴かせるようなところは皆無。ノスタルジーとは無縁、音楽をいい意味でむき出しのRAWな(生々しい)状態で聴き手に提示する。

それは先入観抜きで音楽と向き合うのが好きな僕には合っている。ライブ アルバムをこのスピーカーで音量を上げて聴くと、ステージに積み上げられたPAの前にいるような気分になれる。クラシックも緻密でスケール感があり、オーケストラのクレッシェンドでもゆるがない。

一般的な家庭のリビングルームに置いて楽しむ意味でもサイズも内容もいいスピーカーだ。毎度のことだが、システムが変わると色々と聴き直したくなってくる。

参考リンク:


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